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自分史を書く


 読売文化センター函館で、文章教室を持って三年目に入った。教室が一杯になる人数が集まっているのも、現代の中高年層のなかに、自分の生き方が、時代に流されるだけでは満足できないということが強く自覚されてきたからだろう。指導するというのはおこがましいが、みんなと一緒に、自分史を基点に、過去を考えて文章にしていくということを学んでいるが、受講者の熱心さには、私自身感服しているしだいである。
 最近評判な青木玉の「小石川の家」の一部をテキストにして、感想発表を受講者全員でしたあと、「お年玉」という課題で短文をかいてもらった。それぞれのお国がらや時代の違いも十分に出ていて、じつに面白いお年玉の思い出が綴られ、いたく感激した。
 とくに面白かったのは、弟が生まれたので、姉である私がお年玉をもらえず寂しがっていると、おばさんから、もうあなたはかわいがってもらえないよと追いうちをかけられ、二重に寂しさを感じたというのがある。これもほのぼのとした文章で、自分史とは、何も大きな不幸だけでなく、だれにも通じる小さな寂しさ、悲しさのお話でもある。こうした些細な思い出が個人を支えているリアリティーなのであって、今まで思いだしもしないもの、人にも語らずにいた小さなことを綴ることが、自分史の始まりといえよう。
(いさり火・北海道新聞道南版 平成7年10月)



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