娘のつぶやき

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◇娘のつぶやき


父との写真

昭和59年5月
父と鎌倉にて


いるだけで嬉しい

 「娘のつぶやき」を読んでくれている友人から、最近更新ないね……と言われたのが二か月くらい前だったので、随分時間が経ってしまった。毎日文章を書く時間をちゃんとつくらないとおっくうになってしまい、書きたいことがいろいろあったはずなのに、話題が古くなって今更書いても仕方ないという気持ちになっていた。父のように、毎晩書く習慣をつけなければならないと反省しているところだ。
 3月16日、新聞で思想家吉本隆明氏死去の記事を読み、娘である吉本ばななさんが「『としよりは同じ話ばかりで情けない』と言うのでそんなことない、いるだけで嬉しいと言うと、『そう思えたら、いいんですけどね』と笑いました。最高のお父さんでした」とコメントしているのを読んで、胸がいっぱいになってしまった。「いるだけで嬉しい」というばななさんの言葉が私の心に響き、この言葉を私は父にかけてあげることができなかった。普段、私はおしゃべりで何でも話すように、まわりからは見られがちだが、肝心なときに自分の考えや気持ちを伝えることができず、いつも後悔している。
 父と母に「いるだけで嬉しい」と、病院のベッドに横たわっていたときに手を握りしめて伝えるべきだったと、このコメントを読みながらずっと考えていた。「いるだけで嬉しい」っていう言葉は実に深く、父親に話すことができた吉本ばななさんをすばらしいと思った。「いるだけで嬉しい」、しばらくこの言葉は私の耳から離れないだろう。
 3月23日、北海道新聞朝刊で「7月18日札幌大学でドナルド・キーン氏の講演会」の記事を見つけ、さっそく大学に問い合わせの電話をしてみた。詳細は後日、大学のホームページに掲載されるらしい。ぜひ、講演会にいってみたいと今から楽しみにしている。と、言っても私自身、ドナルド・キーン氏の著作を読んでいるわけではない。ただ小学生の頃からキーン氏の名前を耳にし、父の遺品の中にキーン氏からのはがきや封書があったので勝手に私の方から親近感を抱いているだけである。3月にドナルド・キーン氏が日本永住を決め、日本国籍を取得したとき、仏壇に手をあわせ父に報告した。三島由紀夫について語り、永井荷風の「すみだ川」を読んで泣いたというキーン氏と過ごした父のしあわせだった時間を、私も少しでも感じてみたくて講演会には必ずいってみたいと思っている。その前に父の書棚からキーン氏の本を探し読んでみなくてはならないだろう。
 さて3月末ともなると、タウン誌「街」50年史の準備も本格的になり、私が担当するページも具体的になってきた。自分なりの予定表を作り、早起きして毎朝文章を書く訓練もまた再開しなければならない。今年の私の一番の目標は50年史の完成、もちろん多くの人に読んでもらえる記念誌作りである。50年史に関しての詳細は7月ごろまでには、お知らせできると思う。



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