朝の食卓

トップページ

◆「天使の微笑み」

◆「四千字の世界」

◆「三島由紀夫」

◆「トーク・トーク」

◆「犬が欲しい」

◆随筆あれこれ

◆コラムあれこれ

◆木下順一 年譜

◆木下順一の本

◆パステル画

◆思い出のアルバム

◇北海道新聞
朝刊コラム
「朝の食卓」


◇娘のつぶやき


父との写真

昭和59年5月
父と鎌倉にて


宅配便


 東京に住む長男に宅配便を送った。土曜日の午前中なら家にいると言うので、その時間帯を指定した。夜になっても何も言ってこないため、メールを すると「着いてない」という。伝票番号を検索してみると、「不在のため持ち帰る」と表示された。息子は出かけてないし、郵便受けに不在票も入ってないという。  何だかすっきりしない私は人のせいにしていた。息子が再配達を依頼し荷物を受け取ると、伝票の部屋番号が間違っていたことがわかり、配達の人に あやまったという。「俺の部屋は202号。203号って書いていたよ」と連絡がきた。私のせいで午前中届くはずの荷物が夜8時になり、宅配便の人にも迷惑をかけ、隣の知らない人の所に不在票が入ってしまった。私は落ち込んだ。  20年程前のことを思い出した。私の住んでいる札幌に函館の父から宅配便が 届いた。ひとりで市場に行った父がおいしい魚や海産物をみつけ、私たちに食べさせたいと思い送ったのだ。ところが住所は正しいが宛名に旧姓を書いたので、宅配便の人が「そちらに木下さんという方はお住まいですか」と聞いてき た。私は実家に電話して魚の礼を言う前に母に、父の間違いを責めた。「ごめん ね。嫁いで何年たってもあなたはお父さんの大切な娘だから」と母は言った。私は自分の思いやりの無さに気づいた。  その後、それとなく父に聞くと、母は私の電話の内容を父には話していなかった。
(2016年3月2日 北海道新聞全道版)


<次のコラム>