娘のつぶやき

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◇娘のつぶやき


父との写真

昭和59年5月
父と鎌倉にて


おくりびと

 夫と一緒に映画を観に出かけた。本木雅弘主演の納棺師の話『おくりびと』だ。この映画のことは一年程前に従兄弟から聞いていたので楽しみにしていた。本木雅弘が演ずる納棺師、そして本木が務める納棺の会社の社長役の山崎努の納棺指導をしたのが実は従兄弟の友人のKさんだ。私がKさんのことを知ったのは二年まえに亡くなった祖母の葬儀の時で、立派な花輪をおくってくださった。Kさんが納棺師だと知り、従兄弟にそんな友人がいた事に、少し驚いた。さらに驚いたことはKさんが私の父の『湯灌師』という本を読んでいたことだった。従兄弟がそれを知ったとき、「その本、書いたのは俺のおじさんだよ・・」と言うと、「まさか」と言ってはじめ信じなかったそうだ。私は従兄弟の友人が偶然にも父の本を読んでいたことを知ったとき嬉しくおもった。最近、Kさんにお会いしたとき、彼は会社の本棚から『湯灌師』をもってきて、「まさし(私の従兄弟)から聞いてびっくりしました。あなたのお父様だったんですね。」と言い、納棺師という自分の経験からいろんな話をしてくださった。実は私は父が書いた『湯灌師』を読んでないのだ。父が十年近い歳月をかけて書いた作品なのに…。
 今日、『おくりびと』の映画を観て、父の納棺の時の光景が全く思い出せなかった。私はこのとき何をしていたのだろう。老健施設にいた祖母が自分の息子である父と最後の別れをするために、従兄弟につれられて来たときだった。私は祖母が泣き崩れて大変な事にならないかと、そのことばかりが気になっていた。父が生きているとき、よく「お前はいつも忙しくしていて落ち着きがない」と言われていたが、父の納棺のときも忙しくしていたと思う。映画のシーンのようにはならなかった。

 九月末に函館に墓参りに行くことにした。ゆっくりと『おくりびと』の話をしてこよう。


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