朝の食卓

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朝刊コラム
「朝の食卓」


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父との写真

昭和59年5月
父と鎌倉にて


郵便番号簿


 郵便局に「ご自由にお持ちください」と書かれた真新しい郵便番号簿が積んであった。昔はどこの家にも電話帳と一緒に郵便番号簿が置いてあったと思う。最近はパソコンで郵便番号を調べるので必要なくなってしまった。しかしアナログ派の私は、パソコンで何かを調べてもほとんどプリントアウトし、紙で読まないと頭に入らない。ずっと前から新しい郵便番号簿が欲しいと思っていた。480ページの分厚い郵便番号簿を手にし、探し物をやっと見つけた気分になってリュックに詰めて帰宅した。夫に見せると「ネットで調べればいいのに」とあっさり言われた。
 北海道から順番にページをめくっていった。合併して知らない町名やこの町は山形県だったのか…なんて思いながら眺めていた。途中にそれぞれの地域の広告ページがある。じっくり見ていくと郵便番号だけでも想像は広がる。
 その夜、両親の夢を見た。ふたりがソファに座り、大きな日本地図帳を前に楽しげに話しているのだ。
 母は15年前にA3サイズで2冊組の大きな日本地図帳を買った。実家に帰った時、私が重たくてかさ張る地図帳は邪魔になるだろうと言うと、母は義足で自由に旅行できない父のために買ったのだと答えた。父と母にとって、地図は鑑賞に値するものだった。
 郵便番号簿を片手に両親の遺品となった地図帳を眺めながら、足を骨折して、まだリハビリ中の私も机上の旅を楽しんでいた。
(2017年11月 北海道新聞全道版)


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