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朝の食卓

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朝刊コラム
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父との写真

昭和59年5月
父と鎌倉にて


八はい汁


 冬になると、祖母から教わった八はい汁が食べたくなる。拍子切りした絹ごし豆腐が入ったしょうゆ仕立ての汁物で、かたくり粉でとろみがついている。熱い汁をわんによそい、すりおろした長いもと土しょうがを添えていただく。
 8杯食べたくなるほどおいしいので汁の名前がついたと、子どものころ祖母が教えてくれた。この汁の時は炊き込みごはんか、手こねずしかちらしずしと決まっていた。
 私の母は中学校の教師で私を産んで1か月で職場に復帰した。1959年では珍しかった。母がいない日中は祖父母が私の面倒を見た。学校にあがると私は食事の支度を手伝うため祖母とよく台所にたった。
 そのおかげで祖母の作る料理はだいたい頭の中に入った。結婚して30年経つが、八はい汁はわが家の冬の定番料理になった。八はい汁をいただく時、祖母は私の耳元で何度も言った。「ふうふうしてゆっくり飲むのよ。冷たいとろろ芋の下から熱い汁がでてきて喉をやけどするからね」。息子たちが小さいころ、私も同じことを言ったはずだ。
 祖母が実家に帰った時に、まだ1歳だった叔父がいろりにあった八はい汁の鍋をひっくり返し、腕に大やけどを負っていた。悲しい祖母の記憶を知ったのは私が大人になってからだった。
 今晩は懐かしい祖母の味をいただくことにしよう。
(2015年2月27日 北海道新聞全道版)


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