娘のつぶやき

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◇娘のつぶやき


父との写真

昭和59年5月
父と鎌倉にて


追伸

 『追伸』とは、木下順一13回忌メモリアルとして発行した小冊子のタイトルである。
先月(2017年10月)、函館五島軒に父とつながりが深かった文学や美術関係の方たち30人くらいが集まり、13回忌の会をとりおこなった。タウン誌「街」を復刊してくださった西野鷹志さん、伊原さん、河田さんが中心になって、この会をひらいてくれた。13回忌ともなると、父の兄弟もみんな高齢になり、母のほうの姉妹もみんな、あの世に逝ってしまった。父が愛した函館で、父を支え、長い間おつきあいのあった仲間たちと、思い出話ができた会は、父らしい集まりだったと思った。
 五島軒に行く前に私は両親の墓参りにいったが、札幌から13回忌のために来て下さったNさんとご一緒にお参りをしてきた。彼女は父の文章教室の生徒さんでご主人の転勤で函館に何年か住んでいた20代のときに、たまたま読売新聞の文化教室のチラシを目にして、父の教室を受講したのがはじまりだったそうだ。父が亡くなってから、私ははじめて彼女と札幌でお会いし、それ以来ときどき連絡をとりあっている。
 会場で懐かしい人たちにお会いし、受付で今回作成した『追伸』をいただき、頁をめくるとたくさんの人が文章を寄せてくれていた。
 冊子の最後になぜ『追伸』というタイトルにしたかが書かれていた。
 「木下順一先生と直接かかわることができた豊穣な時間は、人生で得がたい≪本文≫だったと思ったからです。亡くなられてから今日までの12年間を、だから≪追伸≫として披瀝しあってもいいのでは……とかんがえました。」

 今も父のことを忘れないでいてくれる人たちと過ごした五島軒での時間は、私をしあわせにしてくれ、もっと父の話をしたいと感じました。
最後にこの冊子の締め切りに間に合わなかったので……といって、会場で詩人の木田澄子さんが父のために詩を書いて朗読してくださいました。木田さんは「詩」の部門で北海道新聞文学賞を受賞されて、いまは道新の日曜文芸で詩の選者もされています。ご本人の許可をいただいたので、ここで紹介したいと思います。



沐浴する神の子ら の 脚
                    木田 澄子
 (たましいに 脚は 要らないから

此岸から

彼岸まで

天の浮橋を 渉ってきた確かな 足どり

 (たましいに 脚は 要らないから

彼岸の岸辺で 脚を 脱ぐ

 (たましいに 脚は 要らないから

そのようにして 文学の申し子、気高い峰の面差しの
        木下順一先生は
そのようにして 友人、私の好きななかの頼子さんは
そのようにして つい先ごろ逝った、吉田典子さんは

彼岸の岸辺で 脚を 脱いだ

彼岸の岸辺には
何億のさざめく脚もたのしげに
 (芽生えたばかりの 母なる胎内の 脚に 還り
 (岸辺で、迎えてくれたのは 先生の奥さま
               富美子夫人の脚ですか
      遠い日の坂本幸四郎先生の脚もみえます…

 (たましいに 脚は 要らないから

いま 生まれ来ようとする子らは喜々として 岸辺で
沐浴する脚を 選んでいます
  きょう私は
  スクランブル交差点ですれ違う
  脚に
  懐かしく 
  呼びとめられ
   (たましいに 脚は 要らないから
  いっそう親しく
  そう 告げられる

       木下順一先生・13回忌メモリアル会にて
       2017年10月20日 於函館・五島軒



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