娘のつぶやき

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◇娘のつぶやき


父との写真

昭和59年5月
父と鎌倉にて


父と母に報告

 平成20年度札幌市民芸術祭贈呈式が3月14日、札幌市教育文化会館で行われたので出席した。 娘のつぶやきの中の「父からの贈りもの」は昨年、さっぽろ市民文芸に応募して随筆部門で奨励賞を頂いたからである。音楽、書道、絵画、写真、文芸などそれぞれの分野の受賞者が一同に集まった。式典の前に係りの人から注意や説明を受け、金屏風が置かれたステージの前に坐り本番を待っていた。ライトのせいか顔が火照り、喉はカラカラになった。上田札幌市長が来賓の席につかれるとまもなくブザーが鳴り、緞帳がゆっくりと上がった。客席はほとんどが受賞者の家族や友人たちだろう、一斉にカメラのフラッシュが光った。
 受賞式の案内状を頂いたとき、ひとりで出席するつもりだったが同伴者は五名までと記されていたので夫に見せると写真を撮ってあげるから一緒に行くよ、と言ってくれた。たしかにひとりで出席している人はほとんどいなかった。式の後、別室での交流会で随筆の審査員である先生と話をすることができた。そこで父の本、「湯灌師」のことが話題になった。先生は父が道新文学賞を受賞したとき札幌グランドホテルにきてくださっていたことを私は十年経ってはじめて知った。話をしながら、授賞式の日のことを思い出していた。あのときは父も母も元気だった。
 「うちのことを書いてみないか。娘のお前が書くといいものが出来ると思うが…」と言った父の言葉に、「時間もないし、興味もない」と答えた私が両親を亡くしてから、何か書きたいと強く思うようになって、書いたものが「父からの贈りもの」だった。
 晴れやかな場所で賞状をいただき、初めての経験をさせてもらった。最初に報告したい人は父と母だった。もちろんまだ勉強が足りないと言われるだろうが、きっと喜んでくれただろう。そして、母は父の授賞式のときと同じように心配そうにステージの私を隅から見守っていただろう。


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