娘のつぶやき

トップページ

◆『天使の微笑み』

◆『四千字の世界』

◆『トーク・トーク』

◆『犬が欲しい』

◆随筆あれこれ

◆コラムあれこれ

◆木下順一 年譜

◆木下順一の本

◆パステル画

◆思い出のアルバム

◇娘のつぶやき


父との写真

昭和59年5月
父と鎌倉にて


古沢巌さんのチャルダシュ

 初めて平日の午後、ひとりでコンサートに行ってきた。5月ごろ生協の「古沢巌 魅惑のヴァイオリン 愛の調べ」というチラシに目がとまった。スペシャルゲストは森山良子さん。私はコープさっぽろの文化鑑賞会の存在を知らなかったが、古沢巌さんのヴァイオリンをどうしても生で聴きたくて早速問い合わせをしてみた。二年くらい前まで私は古沢巌さんのことはよくは知らなかったが、函館で「タウン誌街」の50年誌を制作しているときに過去の新聞切抜きをパラパラとめくっていると、父が函館新聞の方のインタヴューを受けていた10段の大きな紙面を見つけた。母はよく父の記事をコピーして私に送ってくれていたがこれは初めて見る物だった。その中に父がFMいるか(函館市内の放送局)の番組に出演したときに古沢巌さんの「チャルダシュ」をリクエストした話が出ていた。父の好きな曲のひとつらしい。父がたくさんのヴァイオリニストのなかでなぜ古沢巌さんなのかも知りたくて、このコンサートにいってみることにした。そんなこともあって私はコープさっぽろの文化鑑賞会に入会し毎月積み立てをすることになった。チケットが公演の1か月前に送られてきた。8月27日の午後1時、忘れないようにカレンダーに印をつけておいた。会場は長年、この鑑賞会のメンバーの方たちが集っていて慣れたものだった。チケットは前列から10番目と比較的良い場所で古沢さんの顔も森山さんの顔もよく見えた。ステージに最初、古沢巌さんが現れたときの姿、雰囲気から父が好きなのがよくわかった。黒に小さな白のドット柄のシャツ、ダークグレーのズボン、帽子、何よりも印象にのこったのはヴァイオリンをおさえる時に顎の下に置く絹のスカーフがコバルトブルーのグラデーションで私の目をひいた。見た感じさほど大柄な方ではないのに、ヴァイオリンを弾く姿はエネルギッシュで、この身体のどこから湧き出るのだろうと思えるほどだった。曲目に本当に嬉しいことに「リベルタンゴ」と「チャルダシュ」があった。スケートの鈴木明子さんがソチオリンピックのショートプログラムで使った曲、「愛の賛歌」は古沢巌さんのヴァイオリンだったこともこのコンサートで初めて知った。
 27日は父の月命日だったのでコンサートのおかげで、ホスピスでの最期の時間を思い出し、供養になったと初秋を感じるいい一日だった。もちろん、森山良子さんの歌もテレビで聴くよりもはるかに良かった。古沢巌さんのヴァイオリン伴奏が格調高く、よりしっとりと心に迫るものになったのだろう。
 普段と違う時間を過ごすと私自身も刺激を受け、ただなんとなく過ごしていてはいけないと反省するのだった。そこで3月の腰痛以来書いていなかった「娘のつぶやき」をアップすることにしたが、今さらだが今年もあと4か月しかない。今は歯の調子が悪く治療に通う日々がしばらく続きそうだが、歳をとるとあちこちから老化を感じるが、そこはうまくつきあって、エネルギッシュな日々を送りたい。なんとなく過ごす生活はもったいないと思い、毎日寝る前に明日やることをちゃんと書きとめることにした。子どもの頃もやっていたかもしれないが……。



<次のコラム> <前に戻る>